メッキ加工・材料や素材の表面に装飾や機能性を追加する技術
メッキ(めっき)は、紀元前に生まれた表面加工技術で、材料や素材の表面に装飾や機能性を追加するために使用します。この記事では古代文明の頃から人類とともに歩みを続けるメッキの起源や役割、種類、応用技術などについてご紹介していきます。
メッキ加工
メッキ(めっき)は、古代文明において、すでに使われていたことがわかっている表面加工技術です。材料や素材の表面に装飾性や機能性を追加することがメッキの主な役割です。
メッキ加工の起源
メッキは、カタカナで書かれることが多いため、外来語だと思っている方が多いようですが、実はこれ「和製漢語」。メッキの技術は仏教と共に日本に入ってきたと言われていますが、昔は「滅金(めっきん)」と呼ばれていたことが、現在、「めっき」と呼ばれる由来になっています。
メッキの起源は諸説ありますが、2500年から3000年ほど前には、すでにメッキの技術が存在していたと考えられています。メソポタミア文明では、水銀法と呼ばれるメッキ加工がすでに行われていて、この加工技術はシルクロードを通り中国、そして日本へと伝わったと考えられています。メソポタミアの西にあった古代エジプト文明の遺跡からもメッキが施された品が見つかっています。日本では、「金アマルガム法」と呼ばれるメッキ加工が、古墳時代以降行われるようになりました。これは水銀と金を混合した物質「金アマルガム」を材料や素材表面に塗布し、さらに火を入れることで水銀を蒸発させて、金を表面に定着させるメッキ加工の方法です。実際、過去の古墳発掘調査において、メッキ加工が施された青銅器などのほかに、加工に使われたとみられる金アマルガムの残留物なども見つかっています。私たちがよく知る奈良の大仏様も、この金アマルガム法でメッキ加工された作品です。金アマルガム法は、その後も日本では盛んに使われましたが、現在では水銀を気体にして大気中に放出することは禁じられています。水銀は有害物質であり、奈良の大仏様のめっき作業においては、おそらく作業に当たった多くの人が、水銀による中毒症状を発症したのではないかと考えられています。
メッキ加工の技術
メッキ加工は、材料や素材の表面に装飾や機能を与えるための表面処理技術です。メッキには、「溶融メッキ」「気相メッキ」「電気メッキ」「化学メッキ」など、さまざまな種類があります。
- ・溶融メッキ
- 溶融メッキは、高温状態の溶融した金属の中に材料や素材を入れ、表面にメッキを施す方法です。材料や素材自体にも熱が入ってしまうこと、そしてメッキが分厚くなりやすいという特徴があります。また、低い温度で溶ける性質のある金属でしか溶融メッキの方法は使えないという弱点もあります。
- ・気相メッキ
- 気相メッキは、蒸気化した金属や、イオン化、ハロゲン化した金属を、密閉空間の中で素材や材料に接触させることで表面処理を施す方法です。さまざまな金属や化合物の被膜を作ることができますが、素材や材料に熱が加わること、定着が少し劣ること、仕組みが複雑でコストパフォーマンスがよくないなどの弱点もあります。
- ・電気メッキ
- 電気メッキは、電解液の中に素材や材料を浸し、さら直流電気を流すことにより電解液中の金属をイオン化し、表面にメッキを施す方法です。ひじょうに薄い被膜を作ることが可能で、金属のほか、合金をメッキすることも可能です。比較的低い温度で作業をするため、素材や材料に熱が加わることがないことも電気メッキのメリットの一つ。ただ、電極の位置により定着にムラができること、設備が大がかりになりやすいこと、そして、そもそも通電しない素材や材料にはメッキ処理できない、というデメリットがあります。
- ・化学メッキ
- 化学メッキは、還元剤と金属イオンの化学反応を利用して、表面にメッキを施す方法です。薄く、均一な被膜を作りやすいこと、通電しない素材にもメッキできるというメリットがあります。ただ、廃液を処理するための仕組みが必要なため設備が大がかりになりやすい、メッキ自体のバリエーションが少ない、というデメリットも存在します。
メッキの種類
- ・一つの金属によるメッキ
- 金メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキ、銅メッキ、亜鉛メッキ、スズメッキなど
- ・合金によるメッキ
- 黄銅メッキ、はんだメッキ、ブロンズメッキ、亜鉛ニッケルなど各種合金メッキ
- ・複合メッキ
- シリコンカーバイド、PTFEなどを粒子化してメッキ
メッキの装飾性と機能性について
メッキの主な役割は、素材や材料に装飾性や機能性を追加することです。
メッキの装飾性
メッキには、素材や材料にデザインを付与したり、光沢や色調を加えたりして、美しく見せる装飾性を付与する力があります。ファッションアクセサリー、貴金属、自動車、電化製品など、あらゆる製品の装飾にメッキが使われています。
メッキの耐食性
メッキは、素材や材料を錆や腐食から守る耐食性を付与するために使われます。
メッキの耐摩耗性
メッキは、自動車やオートバイなどのエンジンパーツ、さまざまな機械のパーツなど、シビアな環境で使用されるパーツに耐摩耗性を付与することができます。
メッキの特性
材料や素材にメッキを施すことで、装飾性や耐食性、耐摩耗性を付与することができますが、メッキにはさらに特別な機能性を付与する力もあります。
- ・物理的特性
- 接着性やはんだ付け性を付与します。
- ・熱的特性
- 熱吸収、熱反射、熱伝導など熱に関する性質を付与します。
- ・化学的特性
- 耐薬品性、殺菌性など科学的特性を付与します。
- ・機械的強度特性
- 肉盛り、潤滑、硬度などを付与します。
- ・電気的特性
- 抵抗性、伝導性など、電気に関する特性を付与します。
- ・光学特性
- 反射や吸収など、光に関わる特性を付与します。
メッキが優れているわけ
メッキが持つ優れた点、特徴をご紹介します。
コストが比較的安い
メッキに使われる装置は、それ自体がそれほど高いものではありません。他の工業分野で使用されている装置と比較しても安価です。
被膜用金属が豊富
金、銀、銅、ニッケルなど、さまざまな金属を被膜用として使うことができます。
さまざまな素材に使える
メッキは金属のほか、プラスチックなどさまざまな素材に施すことが可能です。
大量作業可能
大量の作業を一度にこなせます。
省エネ
元々の素材が持たない特性を付与することができるので、資源やエネルギーを無駄にすることがありません。
多彩な外観
メッキを施すことで多彩な外観を演出することができます。
対象物の大きさを選ばない
大小さまざまな大きさの対象物にメッキすることができます。
内側に被膜を作れる
パイプなどの内側にメッキすることも可能です。
被膜の厚さをコントロール
メッキは、電流や時間を変えることにより、被膜の厚さをコントロールすることができます。
メッキ技術の応用
メッキの技術はさまざまな分野に応用されています。
電鋳
電鋳は、金型や製品の生産にメッキの技術を応用した技術です。電鋳では、被膜自体を製品にします。精度、転写性に優れ、継ぎ目のない製品や、中が空洞になっている製品を作ることもできます。
基板
回路などのプリント基板には、メッキの技術が応用されています。
電子部品
マイクロチップやコンデンサなどの電子部品にもメッキの技術が活かされています。 人類は古くから装飾性や機能性を材料に付与するためにメッキを使ってきました。現在でもその基本的な考え方は変わりありませんが、現在はどちらかと言うと、メッキの技術の応用が、さまざまな分野のものづくりを支えるようになった、と言えるかもしれません。